2006年世界選手権大会に出場して

小 成 裕 之   

 この度、2006年9月20日〜24日までフランス・グルノーブルで開催された2006年ペタンク世界選手権大会に出場してきました。この貴重な経験をペタンクをプレーする多くの方々に伝えたいと思い、ここに報告書としてまとめてみました。かなり長文になってしまいましたが、ご一読いただければ幸いです。

※文中(※画像)というのは、クリックすると画像を御覧いただけます。
※文中(※動画)というのは、クリックすると動画を御覧いただけます。音量有で御覧いただければ、会場の雰囲気等もリアルに伝わるかと思います。

★フランス・グルノーブルへ
 私が本格的にペタンクを競技として取り組んだきっかけは、1991年に来日したラ・マルセイエーズの優勝、準優勝チームの対戦を観戦してからである。いつか自分もあのようなプレーをしてみたいという思いから、ペタンクの練習に明け暮れる日々が続き、まだまだ技術的に未熟ではあったが、いつか世界選手権のような大きな舞台でプレーできることを夢見て練習してきた。今回、チームメイトである平野君、向川君、杉浦君と共に力を合わせ、幸運にも世界選手権の出場権を得ることができた。出場権を得た喜びと同時に日本代表としての責任を感じながら、代表決定から日本を発つまでの間、精神面も含め練習をしてきたつもりである。自分が目指してきたペタンクが世界に対し、いったいどこまで通用するのか・・・期待と不安が入り交じった複雑な心境で9月19日、日本を発った。(※画像)
 ロンドンのヒースロー空港経由でリオンへ、同日リオン泊、翌20日午前に会場入りした。開催地のフランス、グルノーブルは、アルプス山脈の麓に位置し、周囲を大きな岩山で囲まれている人口15万人の小都市である。今回、会場となったパレ・デ・スポーツは1968年に開催されたグルノーブル冬季オリンピックの際にフィギアスケートが行われた会場である。
(※画像)
 世界選手権は1959年に第1回目が開催され、途中開催されない年をあるが、1971年以降は毎年開催されており、今年で42回目を迎える。女子に限っては隔年開催(偶数年)となっていおり、今年で10回目である。参加国は男子が56カ国57チーム、女子が44カ国46チームであった。また、男女が同時に同会場で開催されるのは、珍しいとのことである。なお、前回優勝国及び開催国は2チーム出場できることになっているため、男子がフランス(前年優勝枠のみ)、女子はタイランド(前年優勝枠)とフランス(開催国)がそれぞれ2チームエントリーしている。また、ジュニア世界選手権も隔年開催で、こちらは奇数年の開催である。
 会場では最初に受付をし、顔写真が印刷されたIDカードを受け取る。大会期間中はこのIDカードを提示しなければ、会場に入ることができない。この日は16時から開会式が行われ、20時からティールコンテストが行われる。午後になると、会場外で各国の選手が練習をしており、我々も練習を開始。早速ギニアの選手より練習試合を申し込まれる。練習試合とはいえ外国選手とプレーできるのは本戦前の貴重な経験となるため、決して練習感覚でのプレーはできない。数メーヌ我々のペースで試合が進行し、4−1とリード。ギニアの選手から笑顔が消えた。「日本も世界と対等に戦える」と手応えを感じた。しかし、その後、試合途中であったが開会式が迫っていたため、会場入口に集合となった。

★開会式・予選リーグ抽選会
 世界選手権の開会式はオリンピックと似たようなもので、アルファベット順に国名がアナウンスされ、プラカード、国旗を先頭に各国選手団が入場するスタイルとなっている。式中のアナウンスは全てフランス語のため、全く理解することはできなかったが、役員の挨拶他、一通りのセレモニーが行われた。開会式終了後、選手は選手専用の席に移動させられ、この後、予選の組み合わせ抽選会が行われた。
 予選リーグの抽選は、強豪国同士が同じブロックにならないよう配慮されているとのことである。男女共に8ブロックに分けられ、男子が1ブロック当たり7〜8チーム、女子が5〜6チームに分けられた。その中でリーグ戦(総当たり)を行い、上位4チーム、計32チームが予選突破となる。日本男子は最終Hブロックに入り、フランス2(前年優勝チーム)、タヒチ、マレーシア、ニュージーランド、ベニン、ルクセンブルクと対戦することになった。(※画像)
 初の世界選手権、どうせ戦うなら強いチームと戦ってみたい。その思いが通じたのか、幸運にも前年度優勝チーム、我々が目指すペタンクの頂点に君臨するフランスとの対戦が実現することになり、期待感が膨らんだ。選手はジュリアン・ラムール(ポワントゥール)、ヘンリー・ラクロア(ポワントゥール/ミリュー)、フィリップ・スショー(ミリュー/ティルール)、シモン・コルト(ティルール)である。中でもスショーは過去6度世界選手権の優勝者である。(優勝回数は歴代2位)1999年にはダビデ・ルダンテク選手と共に日本にも来日している。このチームのコーチはご存じフィリップ・キャンテ。ちなみにキャンテは過去8度世界選手権を制しており、もちろん優勝回数1位である。開会式の時から感じていたが、フランスの選手には他国の選手とは違いオーラが漂っており、何といっても前年度覇者しか着ることのできないレインボーシャツがとてもよく似合っていた。(※画像)
 一方、同じブロックの他の6カ国については、私には全く情報がなく対戦してみないと実力が分からない状況であったが、ビューラーコーチの情報ではタヒチが強豪、ベニンはティール主体で攻めてくるとのことであった。いずれにしても対戦相手に関わらず、我々のプレーをすることを心がけ予選に挑もうと気持ちを引き締めた。目標は予選突破し、少しでも上位に入ることを掲げた。
 午後8時、私にとっての世界選手権が始まった。

★ティールコンテスト
 世界選手権での最初の投球がティールコンテストとなった。ティールコンテストとは、6.5m〜9.5mの1m間隔4つの距離で、次の5つのパターンで対象球を狙い、得点を競うものである。対象球は直径60pの円内の中心にあり、対象球を円から出せば3点、当たっても円から出なければ1点、円から出して、投げたボールが円内に残れば(カロー)5点の得点が得られる。
@障害球なしで対象球を弾く
A対象球手前約10pにビュットを置き、ビュットを動かさずに対象球を弾く
 ※ビュットが少しでも動けば0点
B対象球の左右に約5pの間隔で障害球を置き、対象球のみ弾く
 ※対象球に当たった後、左右のボールに当たった場合は1点
C対象球の手前約10pにボールを置き、対象球のみ弾く
 ※障害球に少しでも当たれば0点
Dビュットを弾く
 ※ビュットに限り円内から出せば5点、当たって円から出なければ1点
 @〜Cまで全てカローで80点、最後のビュットを全て弾いて20点、計 100点満点であり、現在の世界記録が62点、フランスのフィリップ・キャンテが2002年に記録している。
 挑戦するに当たり30点以上を目標に挑んだ。
 第1球目、サークルに入り、気持ちを落ち着かせ、対象球に集中する……しかし、気持ちとは裏腹に足が震えてくる。試合でのティールの場面とは全く違う雰囲気に心も身体も完全に舞い上がってしまっている。結果は25点、56人中24番目であった。予選通過ラインが28点だったのであと1球当てていればと思ったが時既に遅し。
 ティールコンテスト予選の上位21人は、翌日1対1の対戦で高得点者が次の対戦へ進出するトーナメント方式となる。コンテストは競技中のティールと違い、独特の雰囲気があり、試合では難なく当て続ける一流選手でも、20点に到達しないことがある。今年2連覇したタイのプサ・アド選手は、母国の軍隊に所属しており、午前は仕事、午後からペタンクの練習という生活をしていると聞いた。彼は出場選手の中でもフランスの選手並みの注目を浴びていた。
(※画像)
(※動画1)(解説:無駄な力を使っていない素晴らしいフォームです。)
(※動画2)(解説:この動画は、ティールコンテスト決勝戦での最後の投球、つまり9.5mのビュットティールです。ここまで得点は26対31でプサ・アド選手が負けています。当たれば、同点となりサドンデス、外れれば負けというプレッシャーの中での投球です。)
 一方女子のティールコンテストは、準決勝でフランスのパポン選手が61点という女子の世界記録を出した。これは、男子の世界記録62点にあと1点と迫る、素晴らしい記録である。これだけの高得点を出すからには、最後のビュットティールは当然4球とも成功させている。決勝戦はパポン選手とタイランドの選手のハイレベルな戦いとなった。タイランドの選手は前回の世界選手権の優勝メンバーの中心人物であり、ティールコンテストの覇者でもある。昨年のアジア選手権でも両種目とも優勝しており、今やアジア王者ではなく、世界王者の地位にいる。ちなみに職業は警察官とのこと。勝負は、パポン選手が優位に進め、最後のビュットティールまでもつれ込んだが、パポン選手が残り2球残して優勝を決めた。(※画像)
 男女を通じ感じたことだが、投球フォームについて、国々による違いや、体格差による違いがあった。その点については、後程触れたいと思う。

★予選リーグ
 21日、午前8時より前日のティールコンテストの続きが行われ、ベスト4までが選出された。そのため予選の試合開始は、午後3時からである。
 午後3時、予選1試合目が同時に開始されたが、我々の初戦はチーム数の都合で休みである。同じブロックの他のチームの試合を観戦する。どのチームもポワンテは寄るし、ティールも高い確率で当てている。この国には勝てそうだと思えるようなチームはない。しかし、気持ちで負けては勝負にならない。我々日本人は国内の試合でティールを当て続けられるという経験がほとんどないため、高い確率で当て続けているチームを見ると精神面で弱さが出る傾向にある。チームメイトには、技術が高そうに見えるが、他の国から見れば、日本だって上手く見えるかもしれない。“条件は一緒だ”と励ましてみたものの、内心私の中でも他国の選手が上手く見えたのは事実であった。
 世界選手権の会場には32コートが用意されている。テランの状況は石灰質の土を引いて転圧し、直径5〜10mmの砂利を敷き詰めた状態である。(※画像) (※動画)
 ポワンテはドゥミポルテ、ポルテが適しており、ティールは手前に落ちても当たるが、ラッフルには適してはおらず、カローは比較的出やすい感じがした。大会期間中はコートが空いていても練習することはできない。練習していれば審判員から注意を受ける。対戦相手が決まり、得点板に国名のプレートが入った時点で練習ができることになる。ティールは狙った地点にボールを着地させるだけの投球であるため、地面の状況はさほど関係なく投球できるが、ポワンテは、事前の練習で地面の状況を把握することが重要である。しかし、練習といっても隣接するコートでは常時緊迫した試合が展開されており、常に左右の試合の投球状況を見ながらの練習となるため、満足できる投球練習ができないまま初戦を迎えた。
 初戦はベニン共和国。(※画像)ナイジェリアの左隣に位置し、人口820万人、アフリカにおける民主化のモデル国になっている。先攻後攻はコイントス。また、今大会より、投球サークルは内径50pの樹脂製サークルを使用することになった。おそらくサークルを地面に描いた場合、サークルを踏んでの投球が多かったのと、踏んでいても判断しにくかったことにより、採用になったと思われる。審判員は4名おり、8コートに1人の割合で配置されていた。3名が男性、1名が女性、国籍はフランスから2名、ドイツ、チュニジアから各1名であった。(※画像)
 ベニンとの対戦結果は、5−13で敗戦した。ポワンテはポルテ、ティールは弾道が低めの投球だという印象が残っている。初戦を振り返ると、チーム全体が世界選手権の雰囲気に呑まれて、浮き足だった状態でプレーしていたように思う。現に私の場合、投球サークルに入った時点で両足が震えていたり、たいして暑くもないのに、手の平は常に汗で濡れている状態であった。そしてこの試合だけゲーム展開の記憶が全くないのである。ベニンは最終順位で9位にランクインされており、ベスト16を決めるプルではフランス1に13−4、モロッコには13−10で勝利する実力国であった。
 予選第2試合目の相手はルクセンブルク大公国。(※画像)フランス、ベルギー、ドイツの3国に囲まれた、人口46万人の国である。年配のポワントゥール、若いティルールのチームであった。3メーヌ終了時点で0−8とリードを許す。この間、私の投球は全てポワンテであり、なかなか自分達のペタンクができない。流れを引き寄せるためには、ミスは許されない。成功投球を続け相手にプレッシャーをかけることが必要だ。中盤より大会の雰囲気に慣れてきたのか、安定した投球が続く。流れが日本に来た。ルクセンブルクも流れを変えようとメンバー変更する。しかし、日本への流れは変わらず8メーヌ連続ポイントで11−8とリードする。しかし、詰めの甘さか経験のなさか、2点、3点と5ポイント取られ11-13でゲームセット。勝てる試合を落としたようで、悔しさが頭の中で渦巻く。試合の流れを掴み継続させる重要性、ミスした投球数だけ失点に結びつくレベルの大会だと実感した試合であった。
 予選リーグの抽選後、対戦相手が決定し、大きな掲示板にブロック分けが表示された。しかし、どの国と何試合目で対戦するのかまではどこにも掲示はなく、アナウンスされて初めて、対戦国がわかる状況である。そんな中、会場に「ジャポン、フランス」とのアナウンスがあった。いよいよ、世界王者フランスとの戦いである。
 フランスにとっては予選通過の消化試合であったかもしれない。しかし、対戦するからにはベストを尽くすのみである。前の試合で良かったリズムを継続した試合展開できるよう心がけ、コートに立った。フランスチームはポワンテがジュリアン・ラムール、ミリューがフィリップ・スショー、そしてティルールがシモン・コルトという編成であった。(※画像)
 第1メーヌ、我々の成功投球が続く、フランスはティールを1球ミスした。成功投球が続けば、相手がミスする毎に1点は得点できる。後攻だったこともあり、2点を先制する。第2メーヌも我々の成功投球が続く。フランスはポワンテミス、ティールミスがあり、日本3球を残して、フランス最後の投球。投球者はスショー。座位から低い位置でボールを離し、強烈なスピンをかけたボールが高く舞い上がる。ボールが地面に落ち、これまで聞いたことのない音を発し、ボールがその場で止まる。今大会を通じ、対戦相手のポワンテで唯一、「落下地点=停止位置」の投球を目の当たりにした。しかも落下地点は我々の1番手ボールの15p手前であった。守りの投球としては最高の位置にボールを置かれ、残球での追加点はならず。しかし、1得点し3−0とリード。ミスしなければ対等に戦える。頭では理解していても実力が伴わなければ結果は残せない。次メーヌ以降、我々のミスが重なり、4点、4点、4点と失点が続き3−12。迎えた第7メーヌ、コルト選手が投じたティールが我々のボールを弾く。ここで驚愕の光景を目撃する。通常、投げたボールはバックスピンがかかっているため、綺麗に当たった場合は、その回転の影響で当たった位置から戻ってくる動きをする。しかし、コルト選手のボールは当たった位置から戻ることなく、その場で回転し続けていたのである。投げた方向に対する推進力と戻ろうとするバックスピンの力が均衡のとれた状態であったのだと思われるが、1秒以上その場で回転し続けるボールを見た衝撃は大きかった。このメーヌ絶体絶命となりビットティールを試みるが当たらず、3−13で敗戦する。フランス戦を終えての感想は、寄せる、当てるという投球精度の高さはもちろんだが、ボールの質が他国と大きく違うことが印象的であった。ポワンテでは、特にスショー選手のポルテは、より強いスピンをかけるため、腕を水平より低い位置で止めてボールを放つ投球であった。低い位置でボールを離すということは、より瞬間的に手首の戻しの動作を行わなければならず、それでいてボールを高く舞い上げるため、手のひらにかかる圧力が強く、よって強いスピンが得られるのである。ちなみにこの投法はボールをコントロールするのが非常に難しく、また、強い体力が必要なため、誰もがマスターできる投法ではない。スショー選手はポワンテ、ティール共にこの投法であり、世界的に最も強いスピンをかけてコントロールできる優れたプレーヤーの一人だと考える。
(※画像)
(※動画1)(ポワンテ〜ボールの離す位置、ボールの飛ぶ角度に注目!)
(※動画2)(ティール)
 予選初日の最終戦はマレーシアとの戦いとなった。ちなみにアジアからの参加国は、日本、中国、タイランド、シンガポール、マレーシアの5カ国であり、インドがエントリーしていたが、欠場していた。アジアではカンボジア、ベトナム、ラオスが盛んにペタンクをしているが、国の事情か欠場していた。マレーシア戦の開始時刻は23時。フランス戦後のモチベーションの低下か、時差ぼけなのか、試合が淡々と進んでいく。2−8となった時点で、コーチ、控えの選手に外から見た選手の状態を確認する。何か打破する方策はないものかと考えを巡らすが、時間だけが過ぎてゆき、集中しようと努力はするものの、投げたボールに結果が出ない。2−12となった時点で、勝ちを確信したのかマレーシアが日本を小馬鹿にしたプレーをし始める。その内容は省くが、我々の闘志に火がつく。しかし、時既に遅し、3−13で敗戦。悔しい思いで世界選手権初日が終わった。
 先にも書いたが、対戦相手の対戦順等を記載した掲示物がないのと同様、対戦結果についても何ら掲示されていないため、日本がブロック内でどの順位にいるのかわからない状態で、帰路のバスに乗車した。どちらにしても初日0勝4敗のため、最下位であることは間違いない。これが我々の実力なのか、それとも自分たちのペタンクができていないだけなのか。ホテルに着いたのは午前2時近く。疲労困憊で風呂にも入らず、ベットに潜り込んだ。
 世界選手権のスケジュールは厳しい。朝は5時30分起床、朝食後、6時30分のバスに乗り会場入りする。夜は基本的に0時30分のバスでホテルに戻るのだが、このバスの発車時間がいいかげんであり、午前1時を過ぎても発車しないのには困ったものであった。
 翌22日午前、予選の残り2試合が行われた。会場内では満足な投球練習ができないため、会場外でウォーミングアップを行う。ポワンテ、ティールの手離れ状態を確認し修正すべきところはする。いざ会場へ、世界選手権2日目が始まった。
 この日の初戦はニュージーランド。(※画像)オーストラリアの西側にあり、人口412万人、日本の面積の約4分の3の島国である。相手が何勝しているかわからなかったが、予選残り2試合、悔いが残らぬよう全力を尽くすのみである。この試合、前日4試合経験したことで大会の雰囲気にもだいぶん慣れ、ゆとり持ったプレーができ13−1、6メーヌで勝利を収める。プレーにリズムがあり、やっと自分たちのゲームができた試合であった。世界選手権初勝利、このリズムを継続し、良いイメージのまま予選最終戦である、タヒチと対戦することを心がけコートに立った。
 タヒチは、南太平洋フランス領ポリネシアに属するソシエテ諸島東部にある人口13万人の島である。(※画像)タヒチはティールを積極的にしてくるチームであった。序盤1−7とリードを許す。しかし、相手チームのミスもあり、5メーヌ目に4得点し、5−7と試合の流れを日本に引き寄せる。最終メーヌ、カローが決まり、2得点し13−8でゲームセット。2連勝し、予選試合7戦2勝4敗となる。気分的には前日の4敗を払拭する2勝であり、チーム内の雰囲気も明るく、晴れ晴れとした気持ちで予選を終える。しかし、この時点ではブロック内の勝敗、順位がわからず、昼食会場に向かった。(※画像)
 大会期間中の昼食、夕食は会場に隣接する特設テント(テントといっても15m×50m位の広さである。)で食べることになる。選手には大会期間中の食券が配られ、決められた時間に行けば自由に食べられるシステムになっている。メニューは当然フランス料理で、バイキング方式。飲み物はワイン、オレンジジュース、コーラ、ミネラルウォーターが飲み放題であった。タヒチ戦後、ワインを飲もうかとも思ったが、予選の突破、敗退にかかわらず続きの試合があるため、飲むのは控えた。チームメイト、わざわざフランスまで応援に来てくれた応援団の方々と(※画像)、タヒチ戦の戦評を語り合いながら昼食をとってる最中、ビューラーコーチから私に呼び出しがあり、コーチの元へ。「おめでとう」と言われ、まさかとも思ったが、「おめでとう」の言葉の意味は一つしかなく、予選突破を意味するものであった。すぐにチームメイト、応援団に報告。歓喜の渦が我々のテーブルで広がり、近くで食事中の他国の選手も拍手で祝福してくれた。ブロック内の順位はフランス2が6戦全勝で1位、次いでルクセンブルクが5勝1敗で2位、ベニンが4勝2敗の3位、残る1枠を日本とタヒチが2勝同士で並んだが、対戦時の勝敗で我々日本が4番目に入った。ジュースで乾杯し、再度喜びを分かち合う。今までの努力が少しは報われた気がして、嬉しさが身体中を駆け巡っていた。
(※予選リーグ結果)

★決勝プル(と呼ぶのかわからないが・・・・)
 予選突破後の対戦は、トーナメントではなく、ベスト32を1ブロック4チームの8つのブロックに分けてプルを行い、上位16チームに絞り込む。さらにその16チームを4つのブロックに分け、プルにて8チームに絞り込む。ベスト8が決定してからトーナメント戦となる。
※プルとは4チーム1ブロックとし、まずは、1回戦を行う。2回戦目は1勝同士、1敗同士が対戦する。1勝同士の対戦で勝ったチームが2勝となり、1抜けする。1敗同士の対戦で負けた方は敗退決定。3回戦目は1勝1敗同士が対戦し勝ったチームが2抜けとなる。つまり先に2勝したチームが次の段階へ進む対戦方式であり、世界一般で採用されている。
 最初のプルのチーム分けは予選の結果に基づき、A〜H各ブロックの1位〜4位までが、それぞれ入るようになっている。我々のブロックは、Aブロック1位のタイランド、Bブロック2位のアルゼンチン、Gブロック3位のスエーデン、そしてHブロック4位の日本となった。ブロック内の対戦も1回戦目は【1位通過対4位通過】、【2位通過対3位通過】の対戦となっている。これにより日本の初戦はアジア王者タイランドとの対戦となった。
 タイランドは前年度銅メダルを獲得しており、アジアの国で数少ないメダル獲得国である。(1991年に銀メダル、2002年、2005年銅メダル、その他アジアではカンボジアが2004年に銅メダルを獲得している。)また、2002年の世界選手権、準決勝でのフランス戦では誰もがタイランドが勝ったと思うところまでいきながら、ミスの連投で敗戦している。個人的になるが、タイランドとはシンガポール国際大会で2回、2005年のアジア大会で1回の計3回対戦している。いずれもタイランドの最強メンバーではないが、2勝1敗で勝ち越しており、相性は悪くない。しかし、今回は最強メンバーである。(※画像)
 気持ちの持ちようだが、日本人(私だけかもしれないが)の頭の中には「フランス=最強国」というイメージがある。ヨーロッパ周辺諸国の人々の風貌はフランス人と似ており、特に私には見ただけでは区別がつかず、風貌だけでその選手が“上手い”、“強い”といったイメージを抱いてしまう。在日で、ほとんどペタンクをしたことのないフランス人でもフランス人というネームバリュー、また、フランス人でなくても欧州の風貌の影響で何故か上手なプレーヤーに見えてしまうのは、私だけではないはずである。そのようなイメージを先に抱いてしまうと少なからず自分の実力が発揮できずに終わることが多い。私はこれを「外人恐怖症」と呼んでいる。その点、タイランドの選手は強豪国であるという認識はあっても同じアジアの国であるため、心理的に楽な面があったのは間違いなかった。
 タイランドのポワントゥールは前回大会で銅メダルを獲得した選手でもあり、2005年のアジア大会予選で対戦した選手でもあった。この選手は参加選手中、最も高く上げるポルテでポワンテし、なおかつ安定しており、崩れることがない。ミリューはティールコンテストで2連覇したプサ・アド選手である。ティルールは3人の中で最も若く、綺麗なフォームで投げる選手であった。数年前までタイランドの選手はボールを握る際、親指を下にし、4本の指と親指で挟むように握っており、一時アジアの中で流行した時期もあった。しかし、ボールコントロールはできても、スピンのかかりが弱いため、世界選手権で常に上位を目指すのには難がある。いろいろ研究した結果、フランス式の握りに改善したと思われる。
 この日はここまで2連勝し、予選突破の朗報もあって、チーム内の士気も高まっていた。序盤、相手チームのティールがしっかり当たらない。当たらないといってもしっかり当たらないだけである。我々の1球目が寄り、ティールで弾かれても、しっかり当たらなかったため、我々のボールがまだ近く、相手チームが投球しなければならない状況が生じる。ペタンクは先攻が不利だが、これで形勢は逆転である。ちょっとしたことだが、それだけで流れが変わってしまうこともある。この試合の展開がそうであった。前述した場面があると、心理的に「このメーヌはとれる」というプラス思考が働き、チーム内での成功投球が続く。相手チームに常にプレッシャーをかけ続けられたのである。しかし、さすがアジア王者である。終盤12−4とリーチをかけた場面、メーヌ途中で我々が有利な状況でビュットティールを2メーヌ連続で成功させ、メーヌを無効にする。このビュットティールはティルールではなくミリューであるプサ・アド選手が投球したものである。高い技術を持った選手がチームを組んだ場合、ミリューの投球が一番重要となる。高い技術をもっているのだから当然ティルールは当てる。おのずとミリューの選手にティールの場面がまわってくる。また、高い確率で最後までボールを持っているのはミリューの選手であり、メーヌの勝敗を決める重要なポイントゲッターでもある。ビュットティール等、絶対的に成功させなければならない局面では、役割分担に関係なく、最も成功する確率の高い選手が投球するのが常識となっている。しかし、2度の無効メーヌ後も我々への流れは止まらない。その次のメーヌも有利に進め、再びプサ・アド選手のビュットティールである。ビュットには当たったがエンドラインからは出ず、約11mの距離で止まる。相手が寄せるが、カローが出て2点の状況。相手は残り1球、ポワンテしかない。最後はポワンテが寄らずゲームセット。2時間を超える熱戦に勝利した。
 この試合、私は何度もガッツポーズをした。自分が良いプレーをしたときはもちろん、チームメイトのプレーにも自然とガッツポーズが出た。世界選手権は、ガッツポーズをしても不自然でない舞台であり、恥じらいもなく自然とできるアクションであった。タイランド戦は本部席の前で行われ、役員の方々も注目して試合展開を観戦していた。また、場内では日本がタイランド相手に有利に試合を進めているとのアナウンスが流れ、他国の選手も「日本が本当に勝つのか」といった表情で観戦していた。また、投球しようとサークルに向かう途中、会場の応援団より「日本頑張れ!」「小成頑張れ!」の声援も大いに勇気付けられ、追い風となって、実力以上の結果が出せたと思う。試合後、会場内を歩いていると、様々な国の選手から握手やハイタッチを求められ、「Good game」と言われたり、親指を立てて「良くやった」という仕草をされた。一つの勝利がこんなにも反響があったことに再び喜びでいっぱいとなった。
 ベスト16を懸けたプルの初戦を勝利し、次は1勝同士の対戦となる。もう一方の試合はアルゼンチンがスウェーデンを13−3で降していた。後に聞いた話だが、アルゼンチン代表といっても、アルゼンチンに住んでいるわけではなく、フランスかフランス周辺国で生活しており、世界選手権に出場するために、まだペタンクの普及していないアルゼンチンでの代表権を得て出場しているとのことである。ということは毎回世界選手権に出場しているはずで、国際大会経験豊富な貫禄があった。(※画像)
 試合結果は、3−13の惨敗だった。相手チームの実力が勝っていたのかというと、そうではないと思う。力の差はそんなになかったはずである。我々が全く自分たちのペタンクがてきない結果の敗戦であった。外から見ていれば「どうしたんだ」、「何やってんだ」という感じだったと思う。これでプルは1勝1敗、次は再びタイランドとの試合である。
 ペタンクにはチームの流れ、リズムがあり、短期的なものと長期的なものがある。短期的なものは一つのプレーで流れが変わったりするものだが、長期的なものとなると、複数試合その流れを維持することになる。プラスの流れであれば良いのだが、マイナスの流れに嵌り込むと抜け出すのは難しい。ペタンクの大会では、あまり実力があると思われていないチームが優勝することがある。これはプラスの流れが長期的に続いた結果であり、初戦から決勝まで続くと、最終的には優勝することがある。逆に、優勝候補のチームが予選敗退ということもある。これがあるからペタンクは面白いのだが、長期マイナスにモードになった方はたまったものではない。日本はアルゼンチン戦からこのモードに嵌っていたのだと思う。
 タイランドとの再戦は0−13。2点、5点、6点と取られ、たった3メーヌでゲームセット。1回目の対戦と違い、ミスの連発、成功投球がほとんどない試合であった。これではどんなチームと戦っても負ける試合内容である。決して安易な投球をしていたわけではないし、全力を尽くして投球したつもりである。結果が伴わないのは、我々の実力不足、精神面での弱さ、そのものであった。この2試合、ティールを12投球し、当たったのがたった4球である。ベスト16ならず。世界はそんなに甘くない。
(※決勝プル結果)
 午後6時、この日は、これで我々の日程は終了である。フランスに来て初めて時間的余裕ができた。チケットでの夕食にも飽きてきたので、この日はグルノーブル市内のレストランで夕食を摂ることにした。久しぶりにアルコールを飲み、ペタンク談義に花が咲く。H君、M君は大きなステーキを2枚も食べてニコニコ顔である。私はというと、いつの間にか寝てしまっており(酔ってではなく疲れてです。)、仲間に抱えられながらホテルに帰る。日本から持ってきたカップラーメンを食べて、この日は寝た。
 大会3日目。この日から、ネイションズカップに回ることとなる。ネイションズカップは、予選敗退チーム及び決勝プルで敗退したチームが順次加わり行われる。最終的にネイションカップはベスト16に残れなかった42チームにより行われた。予選突破チームは、ネイションカップの途中から加わることになるため、ある程度の順位は確保されることとなる。ちなみにこの対戦方式もベスト16まではプルで行われた。
 初戦はアンドラ公国。アンドラは、フランスとスペインに挟まれた国で人口8万人、面積468Kmの小国である。(※画像)3メーヌ終了時点で、7−0とリードするが、流れが相手チームに移り、7−7と追いつかれる。しかし、再度流れをとり戻し、13−7で勝利。
 次は1勝同士の対戦で、サンマリノ共和国である。この国は四方をイタリアに囲まれているというか、イタリアの中にある人口3万人、面積61.2kmの小国である。(※画像)この国の特徴は、ビュットを常に9m以上に投げてくることである。これまでの対戦国で常時9mを超えて投げてくるチームはなかった。対戦国にもよるのだろうが、我々の場合は、ほとんどの国が7〜9mの間にビュットを投げていた。先攻後攻を決めるコイントスで後攻となり、いきなり10m付近に投げられ苦戦を強いられる。遠い距離を好むということは、近い距離が苦手の可能性大、ビュット権を取ったら6mに投げようと決める。4メーヌ目にやっとビュット権が取れる。ビュットを投げようとしてビュットを確かめたところ普段我々が使用しているビュットと何かが違う。よく観察するとやや小さく、非常に軽いビュットであった。ビュット1投目、軽いのが原因なのか、6mに足らず再度投げ直し、2投目も同じ。3投目は大きくそれて隣のコートへ・・・・相手チームにビュット権が移る。再度10mの勝負となった。1−8とリードを許し、やっとの思いで2度目のビュット権獲得。今度は6mを少し超えたところに投げることができた。やはり短い距離が苦手なようである。7−10と追い上げたが、序盤の失点が響き7−13で敗戦した。私のビュットの投球ミスが勝敗を左右した試合であった。
 この日、思うようにティールが当たらない。2試合で33投球中19球しか当たらず、特にコースのブレが目立った。原因を解明すべくフォームをチェック。力が入っていたのと、手首の巻き付けが甘いのが原因とわかり、正すことにした。調子が悪いとき、これまでの経験から原因を探るが、原因がわからず、悩み続けることがある。そんな時は、不安な投球が続くものだが、この時は原因を見つけることができ、不安は消えていた。
 1勝1敗となり次の対戦での勝敗が順位に大きく左右する。対戦相手はオーストラリア。(※画像)オーストラリアとは縁があり、昨年のアジア大会で2度対戦している。その時は2連敗しており、特に2戦目は12−5からの逆転負けで悔しい思いをした。また、開会式後の屋外練習で練習試合をした間柄であり、宿泊ホテルも同じであった。アジア大会より一部メンバー変更していたが、力は五分とみた。しかし、精神面では日本が勝っていた。練習試合では我々のペースで試合を進め勝利していたのと、タイランド戦を観戦していたため、日本は強い(本当は違うのだが・・・)というイメージがオーストラリアの選手にはあったようだ。1メーヌ目から相手チームはプレッシャーのかかった投球をしていた。終始日本ペースで試合を運び、13−2で勝利した。これでネイションカップ16位以内確定となった。
 ここからはトーナメント戦となる。つまり負ければ世界選手権は終わってしまう。対戦相手はポルトガル。前回大会9位の実力国である。(※画像)今大会13試合目となり、完全に雰囲気にも慣れ、萎縮することなく、そして私にとって一番変わったことが、外人恐怖症がなくなっていたことであった。試合を重ねることにより、日本も対等に戦えるという自信が自分の中に芽生えていた。後から聞いたことだが、初日はおどおどとした表情で落ち着きなくコートに立っていたらしいが、最終日には堂々としており、余裕が見られたとのことである。さあポルトガル戦、今までと違う気持ちでコートに立てた。この国も年配のポワントゥール、若いティールールのチームである。序盤、我々の流れで展開し、8−4とリードする。しかし、実力国、互角のメーヌが続くが微妙な差で相手に連続でポイントを許す。途中得点できるチャンスがあるが、ものにできず、8−13で敗戦。世界選手権が終わった。

 最終結果は、総合順位17位、ネイションズカップ9位という結果であった。個人的には、全13試合、ティール投球数160球、当たったのが107球、確率にして67%、うちカローが32球であった。
(※2006年世界選手権最終順位)

★世界選手権、終えての感想
 プログラムによると今回エントリーした国は59カ国(3カ国棄権あり。)で、各国の紹介がされており、その国の人口、会員数等が掲載されている。それぞれ国の事情も様々であり、会員数が12名という国もある。そのため、背負うものも異なり、特にフランスは日本の柔道そのもので、優勝が義務づけられている使命を負っていた。私の中では、大げさかもしれないが、これまでペタンクに懸けてきた思いや、応援してくれた多くの方々の思いを負って、出場したつもりである。それは勝たなければならないというものではなく、まだ未知の世界選手を経験し、もっと世界選手権を身近なものとして感じてもらえるよう伝え広めることだと考えている。今度いつ出場機会が訪れるかわからない世界選手権、最初で最後かもしれないという思いがあったのも事実である。私は、世界選手権を国の名誉を懸けた戦いであると位置付けしたが、これまで日本は弱いというイメージが国内に浸透しており、誰に聞いても日本のレベルは世界の中では「下の中」とか、良くても「中の下」としか答えが返ってこなかった。「1勝もできないで帰ってくるよ」とか言われたりもし、自信を失いかけた時期もあった。しかし、日本だって世界と対等に戦える力があるのは事実で、「日本は世界では勝てない」と印象づけるような悲観的な考えはなくすべきであると思う。何でもそうだかマイナス思考では新たなものは生まれてこない。まだまだ技術的には未熟であるが、日本は強くなっているんだという気持ちを誰もが持つことにより、日本のペタンクも変わってくると思う。今回の17位は正直言って出来過ぎあり、本当の実力は真ん中位、つまり30位前後が妥当だが、世界選手権の順位は紙一重で大きく変わり、予選最終戦のタヒチに負けていれば、32位以下であったろう。しかし、日本は弱いというイメージは捨て、今後のペタンクに取り組むべきである。
 ペタンクはやはり、ヨーロッパが盛んな競技である。今回、出場国56カ国中の内訳は、欧州29カ国、アフリカ14カ国、アジア5カ国、大洋州3カ国、北米2カ国、中東2カ国、中南米1カ国となっている。(※世界選手権各種データ)フランスを中心とした周辺諸国は地続きなこともあり、行き来が容易にでき、世界選手権という舞台でなくても様々な大会で顔を合わせたりすることがあるはずである。そういった点では日本は大きく不利である。島国であり、国際大会に参加しようと思っても容易ではないため、試合慣れ、経験という面での足りなさはこの先、埋めることができないだろう。技術面、精神面をもっと高めることにより、私が感じていた「外人恐怖症」とまではいかないまでも、日本は強くなってきたというイメージを欧州勢に感じてもらえれば、多少は補っていけるのではないかと思う。
 これまでの文書でも触れてきたが、世界選手権は、1球の投球ミスが、大きな失点に繋がるレベルの大会であった。ペタンクは先攻不利であるが、不利にもかかわらず、先攻の1球目をミスしてしまうと、その時点で相手が2球ミスしない限り得点を取ることができない。日本では、よく見かける光景だが、自チーム最初の1球で相手チームが6球投げてくれる場合がある。世界選手権では、そのような光景はまず見ることがない。(と書きながら我々は何度かしてしまったのだが・・・)特に、レベルの高い国同士の戦いでは、試合展開が不利になり、相手チームに3点以上取られそうだと判断したら、1メーヌ目からでもメーヌを無効にするため、ビュットティールをしてくる。我々の場合、相手チームが11〜12点取っている状況で絶体絶命と判断した場合のみ、ビュットティールを試みる。とてもじゃないが、不利な状況で1メーヌ目からビュットティールする技術も勇気もない。それだけのリスクを負いながらも実践する戦術は、当然、技術が伴うからできることなのだろうが、今まで考えたこともなく、ペタンクの世界観が少しだが変わった。ただし、この戦術は世界のベスト5位に入る実力国同士の戦いで見られるものであり、格下相手には実践してこないものである。
 日本では相手チームの力量を見ながら、少しはミスしてくれることを計算して作戦を立てることがあるが、世界選手権でそれをやると高い確率で痛い目に遭う。作戦では、相手チームのミスは計算してはならず、相手の残りボールが全て成功すると仮定した上での戦術で戦わなければならない。特にティールは当てられて当たり前だと思う気持ちでいる必要がある。当てられたことのショック等を感じてしまった時点で負けである。当たり前のことだが、勝つために必要なのは、成功投球を続けることである。2球続けて投げたら得点は取れると思わない方がよい。逆に2球続けて投げてくれたら、自チームがミスしない限り得点が取れるはずである。今回大敗したタイランドの2試合目、0−13、3メーヌでのゲームセットは、13点先取では最短メーヌという恥ずかしいものであった。2メーヌ目、3メーヌ目は我々のミスが連続し、相手の1球で6球投げ続ける投球をしてしまった。ミスすると相手チームに気持ちの余裕が出来、伸び伸びとプレーさせてしまう環境を作り出してしまう。特に最後の6失点は、タイランドの選手に何のプレッシャーも与えられず、6球ポワンテで全てビュットから30p以内に寄せられてしまった。このような状況は、世界選手権に限らず、日本国内の大会でも同じである。ミスを連発し、プレッシャーを感じながら投球するチームと、余裕を持って伸び伸びと投球するチームでは、勝負の行方は一目瞭然である。これを克服するためには、プレッシャーに負けない精神面での強化、そして流れを変えられるプレーを演出する技術も伴わなければならない。
 今大会、流れが悪いとき、相手のボールがあまり寄っていなくてもティールにいった場面があった。寄せても高い確率でティールを当てられてしまうため、相手チームにポワンテをさせるためである。レベルの高い試合では、往々にしてポワンテしているチームが不利であり、ティールしているチームが得点を得ることが多い。特にカローが出たメーヌは、かなり有利に試合を展開することができる。ティールは2球続けて外すというのはめったにない。まして3球続けて外すことはあり得ないと考えた方がよい。しかし、ポワンテの場合だと、ビュットから50p以内に寄らない投球が3球続くこともあり得る。簡単な投球と難しい投球、どちらを相手チームにさせるかを考えた場合、当然難しい投球をさせるべきである。そのためには、ティールを当て続けることはもちろんだが、一番重要なのは相手チームにティールされない、ほどよい位置に自チームのボールを置いておくことである。つまり、ポワンテで逆転できるだろうと思わせる位置が良い。今大会のテランの状況だと、ビュットからの距離は50〜60pと考える。これ以上寄せてしまうとティールされるが、50〜60pだとポワンテしてくる方が多い。当然これ以上寄せられたらティールである。2球続けて寄せられることもあるが、4〜5球続けて寄せられる確率はかなり低くなってくる。
 ポワンテとティール、どちらが難しいかは前述したとおりポワンテである。日本ではほとんどのプレーヤーがポワンテの方が簡単だと考えている。ティールの方が簡単だと思えるようになるためには、技術面の向上と、戦術面での意識改革が必要である。しかし、日本ではこれを大きく阻害しているものがある。それはテランである。出場国全てのペタンク環境は分からないが、日本ほど綺麗なテランで大会が行われている国はないと思う。綺麗な地面だとポワンテはルーレット主体となる。それは最も寄せやすい投法だから仕方ないことであり、私もルーレットすることが多い。しかし、砂利混じりの荒れたテランだった場合どうだろうか。ルーレットで寄せることは困難であり、自然とボールが高めになり、転がる距離を短くしようとするはずである。つまりポルテが最も適した投球方法となるため、ポルテをマスターするようになる。マスターするというより、一番最初に教わる投球方法がポルテなのかもしれない。さらにボールにかかるスピンに対する意識も大きく変わり、強いスピンをかける投球技術も自然と身に付く。また、落とし場所が重要となってくるため、落とし場所を観察するようにもなり、ポワンテ全体に対する意識も大きく変わってくると考える。ポワンテが難しい分、ティールを試みる機会が増える。当然ラッフルでは当たらないため、ダイレクトで狙う。世界選手権のテランもそうであったが、多少手前に落ちても当たってくれる。日本の場合、対象球の5p手前にボールが落ちても粘土質のテランだと跳ねて当たらないことがある。つまり、日本ではポワンテは易しく、ティールはダイレクトでは当たりづらいテランが多いのに対し、世界一般では、ポワンテが難しく、ティールはダイレクトで当たりやすいテランだという大きな環境の差があるのが実態である。この環境の違いはどうすることもできない。だが、本当の技術が身に付くのは難しいテランでプレーすることが重要であり、日本のプレーヤーも是非、難しいテランを好んで練習する習慣をつけて欲しいと願う。
 今大会は、男女合わせて総勢400名近い選手が出場した。私は長年フランスのペタンクを模範として、取り組んできたが、今回様々な国の選手を観察し、特に、投球フォームの違いについて、触れてみたい。
 ペタンクの投球フォームの分類の仕方はいくつかあるが、大きく分けて柔と剛に分けられる。柔とは力をあまり使わず身体の柔軟性を生かした投げ方であり、剛とは体力を生かした力強い投球である。両者を代表する選手として、優勝したフランスチームから選出するならば、柔は、ポワントゥールのシルヴァン・ドゥブリュイ、ティールールのパスカル・ミレイ、一方、剛はミリューのミッシェル・ロアである。
(※動画1)〜シルヴァン・ドゥブリュイ(ポワンテ)
(※動画2)〜パスカル・ミレイ(ティール)
(※動画3)〜パスカル・ミレイ(ティール)
(※動画4)〜ミッシェル・ロア(ポワンテ)
(※動画5)〜ミッシェル・ロア(ティール)(解説:準々決勝での「フランス1」VS「フランス2」の対戦で、勝負を決めたミッシェル・ロアのティールの場面です。勝者、敗者の明暗が顕著に表れています。)
 柔の投げ方の特徴は、ボールの重さを利用してバックスイングをしっかり取り、遠心力を最大限に生かし、無駄な力を使わずに投げるものである。メリットは力を使わない分、大きなブレがなく、安定した投球ができること。デメリットは距離が遠くなった場合、力で補う必要があること、力の投球より、スピンのかかりが弱いこと等である。剛の特徴は、前傾をあまりとらず、バックスイングは腕の力を利用して小さく取り、力で腕を振り出して投げるものである。メリットは距離が遠くても対応できること、コースのブレが少ないことで、デメリットは、力の加減が少し狂っただけで、距離が大きくブレてしまうことである。もちろん両者を部分的にミックスして投げる方法もある。大方の日本人には、柔の投げ方が適していると考えるが、投球フォームの習得には多少時間を要すると考える。力を使わないといっても、基本的に腕がしっかり振れなければならない。また、腕の振り等、大きく動かさなければならない動作がある分、動いてはいけない身体のポイントを動かさないよう制御しなければならいことも必要になる。力での投球動作より緻密な身体の動きが求められる分、習得するまでにはそれなりの鍛錬が必要となる。
 実力国の選手の投球フォームには共通している点がある。まず、無駄な動きがないのが第一に挙げられるが、特にティールでは、左腕をしっかりと使い、前傾した上体が起きあがることがなく、よって頭の上下動もほとんどない。膝の動きも体重移動に合わせ必要最小限の動きに抑えられており、投球後もバランスを崩すことなく、しっかり地に足が着いている。投球フォームの美しさは、私の贔屓目もあるかもしれないが、男女共、フランスの選手が断トツであった。サークルに入り、構えてから投げ終えるまで、どこを捉えても“美”が感じられた。これは動画ではなく、静止画で見た方がわかりやすいかもしれない。様々な国の選手の写真を撮ったが、寄るべくして寄り、当たるべくして当たる投球フォームである。一方まだ、ペタンクの歴史が浅い国や実力的に劣る国は、どこか違和感のある、投球フォームだと感じた。投球フォームの善し悪しの判断は、何でもそうだが、良いものを見続けることにより徐々に分かってくるものである。是非、様々なメディアを通じ、良いペタンクのプレーを見ていただきたい。お勧めはもちろんフランスである。
(※画像)〜美しいフォーム集です。
 戦術面については、どこの国もほぼ似たようなものであった。多少ティールを積極的に用いるチームもあったが大差はないと思う。これはフランスも同じであった。違いは投球が成功するかしないかであり、要は技術面、精神面の差が大きいということである。ただし、戦術面の大差がないといっても、普段、日本国内で行われている戦術とは大きく違うことは理解願いたい。これは前述した日本国内のテラン状況によるマイナス面が大きく左右しているのだが、世界選手権でのティルールの持ち球2球は少なくとも7〜8割がティールの投球であり、ティルールがポワンテするのはごく僅かである。今回の私の場合は、13試合で全229投球中ティールが160球、ポワンテが69球、ティール率は70%であった。日本国内では、ここ数年やっと役割分担の明確化が浸透してきたが、それでもティルールの投球中、ティールの投球はまだ、5割以下だと思われる。別の報告書で触れたことがあるが、ペタンクには投球の役割がある。ペタンクに限らず、どんなスポーツにもプレーヤーの役割がある。一つの役割を任されたら、選手はその役割を全うしなければならない。ティルールの役割を担ったならティールの投球をするのが当然である。しかし、ティルールのポワンテ場面が多くなれば、役割があいまいになり、チーム全体のリズムも狂い悪影響が生じてしまう。ポワントゥールがポワンテする際、ティルールもポワンテしてくれるという意識で行う投球と、ポワンテは自分しかいないという意識で行う投球には、絶対的に違うはずであり、後者には大きな責任意識が生じるものである。ティールは「当たらないからやらない」のではなく「やらないから当たらない」と考え方を改め、ティルールがティールをする局面を多く設ける戦術を組み立てて欲しいと思う。ティルールにしてみれば、コンスタントにティールの投球をしていれば、リズムに乗ることができ、より高い確率で当てることができる。たとえティールが外れたとしてもポワントゥール、ミリューの中には自分の投球で何とかするという意識になるはずでもある。このように役割分担の明確化と、その役割を全うする戦術に変えることにより、意識の違いだけでなく、技術の向上、チームの統制、士気の高揚などにも波及効果があり、ペタンクの素晴らしさが広がるものと考える。特に練習試合では、【勝敗】を競うのではなく、【技術】を競う練習をして欲しい。
 今大会の準々決勝でフランス同士の対戦があった。決勝戦はフランス1とチュニジアの対戦であった。これらの詳細や選手間の交流、表彰式、さよならパーティーの模様などまだまだ書きたいこともあるのだが、かなり長文となってしまったので、そろそろ終わりにしたい。(書ききれなかったことは、一部「写真集」にて紹介しました。)
 今回チームを組んだ平野君、向川君、祐介、貴重な体験を共に共有でき、一体感がある良いチームだったと思う。自分を含め全ての面で未熟さや悔しさを実感したことと思うが、これがスタート地点だと思い、今後も自らの技術を磨くことはもちろん、ペタンクの普及、発展、振興に貢献していきましょう。
 最後に、世界選手権出場にあたり、多くの方々、関係機関より激励、ご支援いただいたことに対し、心より感謝申し上げます。勝利したタイランドとの対戦の終盤、サークルに向かう途中、これまで出会い、交流し親睦を深めた多くの方々、ご支援くださった方々の顔を思い浮かべ、力に変えて投球していました。自分にとって何よりも心強い皆さんの応援でした。ペタンクの素晴らしさは、ペタンクの競技性はもちろん、ペタンクを通じ人的・地域的交流、多くの出会い等、沢山あります。こんなに素晴らしいペタンクをもっと多くの方々に知ってもらい、日本全国で今以上にネットワーク化し、交流が図られることを願っています。
 本当にありがとうございました。
inserted by FC2 system